その言葉の意味を理解するのに、張り積めた空気の中にひとり取り残されている私にはどうしても時間がかかった。


夕焼けが焦がした影が、ひとつ増えて。
その影がピンっと真っ直ぐ伸ばされた糸のように、私を呑み込む。


目の前には、笑顔で何の邪気も持っていなさそうな、そこら辺を歩いている様な普通のスーツ姿の男性。


その人は私を舐めるように、上から下まで見ると。
れみ子を見て、口を開く。



「本当にこの子好きにしていいの?」


「もちろん!もうお金貰ってるもん、好きにしちゃって」


「……最近の子は怖いね……友達も売るんだもん。
 でも僕には関係ないね。
 ……それじゃあ連れていくよ」


「はーい」


語尾にハートマークをつけて、私の背中を押すれみ子。


一歩前に出ると、男が私を見下ろし笑っていた。



「大丈夫……痛いことなんてしないから」


「……っ」



ゾッとする。


気持ち悪い……なに言ってるのこの人。


嫌でも分かる。
れみ子に私の意思関係なく、この人に売られたことを。


この女に話しかけられた時点で、嫌なことが起きると分かってはいたけど。


まさかここまで人間扱いされていないなんて……っ。