─────……

「ハッ、はあっ、」

旧校舎から猛ダッシュしたから、肺がはち切れそう

目の裏に焼き付いて離れない、二人の姿

喉が、ヒュッと変な音をたてた


「ひゃ~っ、湊先輩も大胆だもんな~」

ははっと乾いた笑い声が、静かな西階段に響いた

「……いーなぁ」

この間までは一番私が先輩に近かった………はず……なのに、

爽やかな香水も

細いのに力強い腕も

冷たい目も

低い体温も

もう、私のものじゃない


二度と私が触れてはいけないものになっちゃったんだ


ぎゅっと自分の体を腕で包み込む

何だか寂しくなって、心細くなって

今まで包み込んでくれていた、何かが一瞬で剥がされたような気持ちになった


そっとポケットからスマホを取り出して、さっきは見られなかった先輩からのメッセージを見る




……ああ、そっか


先輩は教えてくれてたんだ

私が傷つかないように、ちゃんと





好き





大好き






不器用な優しさも大好きでした




電源を落として、膝に顔を埋めた

遠くで近くで聴こえる、賑やかな音楽や生徒の声も、今は全て私には関係のないものに思えた


湊先輩を忘れたい


初めてそんなことを思ったんだ


今だけ

後少しだけ


あなたのことを考えることを許してください







───通知一件

【ごめん、会えなくなった。】

先輩から珍しく届いた、初めての短いメッセージ

嬉しい気持ち、暖かい感情と同時に


今は、それが、ひどく冷たく感じた