絵から離れて、旧校舎へと早足になって向かう

会いたい、会いたい

私はいつも思ってるよ


先輩にも同じ気持ちになってもらえたらって、何度も願ったよ

いつか届くって、本当に信じてたんだ

だから、



何度だって伝えたよ




今日までは







「せ、んぱ」




いつもなら締め切っているドアが開きっぱなしになっていて、

不思議に思って静かに覗いたのに


私の小さく、掠れた声は


静かな空き教室に響くのには充分な声量で、



「…!!、羽華…?」


先輩、湊先輩

何度も、驚きで声には出せないのに、心の中で何度も先輩の名前を呼んだ

視界がゆらゆらと揺れて、先輩を真っ直ぐ捉えることが出来なくなり、そっとその光景から目を反らした



「……蜂蜜ちゃん?」


可愛らしくて、鈴が転がるような声

それは、先輩の声と同じくらい私の耳にすっと馴染んだ



湊先輩に抱きついた紗夜さん


紗夜さんの腕はしっかりと先輩の背中に回っていて、

湊先輩の手は、………紗夜さんの頭に回っていた



「え、えっと…私、」

なんて、言えばいい?

どうやったら、どうしたら


一秒でも早くこの光景から、目を剃らせるの?



というか、

……これで良かったんじゃないかな。


紗夜さんも、まだ湊先輩をちゃんと好きだったんだ

そして、湊先輩も

ちゃんと自分の気持ちに気づけたんだ

なんだ、、私が側にいなくても、先輩は自分で幸せになれたんだね

そっか、そう…

じゃあ、もう私は……いらないよね

だとしたら、

私が今するべきことは、、


「………っ先輩、おめでとうございます!」

「…は?」

「私ね、決めてたんです。先輩に無視されても、呆れられても、ずっと好きって言い続けようって、先輩が誰かに真っ直ぐに想われてるんだって知ってて欲しかったから」

そこで紗夜さんに抱きつかれたままの先輩と視線を合わせる

先輩は、困惑したような、どこか置いていかれているような、不思議な表情を浮かべていた

そんな顔すら愛おしいよ

「けど、それも今日で卒業しようと思います!」


今出来る、満面の笑みで先輩に笑った

きっと、これで最後になるから


私は先輩に、もう会わない


会えないよ

だって先輩への告白は会ったら自然に溢れてきちゃうから

「湊先輩、私、先輩の幸せを見れてよかった!先輩が本当に想い合える人に会えて良かった…」

ねえ、先輩

「これだけは、覚えておいてくださいっ!こんなにも先輩を好きな、バカなストーカー後輩が居たこと!……あとね、?



            ……大好きでした」

最後の声はきっと、誰にも届かない

カッスカスで、涙声

それでも笑った


泣かない

死んでも、この幸せな二人の前でなんて泣かない


代わりに、満面の笑みで笑って、


私は旧校舎を離れた