普段の学校とは違って、混み合う校内

窓の飾り付けも、可愛い格好をした生徒達も、皆学校祭の雰囲気に飲み込まれている

先輩、どこかな?

こんなキラキラの雰囲気に馴染めるわけないから、一人でアウェイになってるだろうから、すぐ見つかると思ったんだけどな

さっきから連絡してるのに出ないし、、まあ、それはいつもの事だけれども

あー、待ち合わせ場所決めておけばよかったぁ

先輩の居そうな場所を巡る

あらかた人の少ない場所を巡ってみた

んー、それでもいないってことは…

やっぱりあそこかな

とっておきのサボり場所

私しか知らない、先輩のお昼寝スペース

足は慣れたように自然とその場所へ向かう

賑やかな音楽も人の声も、先輩が隣にいないと何も耳に届かない

先輩、会いたいよ

それから、ぎゅってしてほしいな

彼女になれなくても、……今だけは、それは諦めるから

とにかく、ぎゅってして、……紗夜さんのことは好きじゃないよって言って欲しい

……ダメかな


旧校舎に近づくにつれて、人気は少なくなっていって、流行りの音楽も小さくなってここだけ別世界に切り離されたみたい


その途中、一部人だかりが見えた


「あ、美術部の……」

美術部の絵の展示がされている廊下

そこだけは、人だかりが出来て賑わっている

先輩方が飾り付けてくれたんであろう、壁や、窓はお洒落なガラスで出来たガーランドで彩られていた

それがキラキラと反射して廊下を鮮やかに照らしている

吸い寄せられるようにどんどん、人が集まってくる

「あ……」

一際、人だかりの出来た視線の先

私も少しだけ輪に近づいて中を覗いて驚いた


キャンバスいっぱいに広がる新緑

真っ赤な夕陽に、雲さえも染まるオレンジ色に照らされて、咲き誇る鮮やかな花

絵の左端には旧校舎に似た建物


そして、その中には……


「私の、絵だ…」

樹先輩、この絵も飾ってくれたんだ

コンクールように描いていた絵

中学校の頃

息苦しい生活のなかで、筆が止まってしまって書き上げられなかった作品

それが、今

沢山の人に見て貰えている

私の絵が沢山の人の瞳を彩っていく

「あ、ねえ、みてみて!」

「え、すご」

「何か、切ないね…男の子かな?」


女子生徒の会話

小さなその声は、私の耳にはしっかり届いた


この絵

背景は、中学校のグラウンドをモデルに

そして、旧校舎は、ここ

先輩の秘密のサボり場所をモチーフに

だから、そこには勿論

先輩を描いたんだ


旧校舎の中

窓枠に肘をついて、どこを見ているのか、特になにかを考えている訳ではないのか

どこか絵空事を連想させる男の子


先輩をモデルにしました!なんて、本人には教えない

言ったらコンクールにこの絵を出展させて貰えなくなりそうだから

三年生越しに完成した絵は、先輩には見せるつもりはない


“完成したら、一番に見たい”

三年前、先輩がくれた大切な言葉

私はそれを無視するよ

私の想いが籠った絵

先輩の背中を押すのには必要ないよね


いやいや!!まだ決まった訳じゃないよね!

もし、もし、


先輩が、いつか

私と並んで笑ってくれる未来があるとしたら

その時に、この絵を見てね


私の、先輩への想いそのものを