~菜留side~

「ほんと、バカ」

珍しくしょげてた羽華

フワフワの太陽色の髪を揺らしながら教室を出ていった

また、先輩を追いかけに行ってしまった

私がもっと前から止めていれば、先輩を好きになることを止めていれば、羽華にあんな顔、させずにすんだのかな

彼女のポジティブにも限界がきたんだろう


羽華の出ていった扉を見つめていたら、つくえの上のスマホが震えた

「……もしもし?」

『あ、菜留?わりぃ、迷った、迎えに来てくんね?』

「えー、めんどくさい」

『なっ!?菜留が来て欲しいって言うから、来たんだぞっ』

「言わなくても来たでしょ?」

『ぐっ!!』

付き合ってから、もう三年経つ彼氏の雅樹

幼馴染みだった私たちに遠慮はない

でも、口の悪い彼の優しさを知っているのも、例えば猫舌で私が冷ましてあげないとダメなところとか


そんな小さなことでさえ、めんどくさいと思いつつ、私しか知らない彼だと思うと手放せない

羽華も同じだよね

きっと、私からしたら九条のどこが良いのかわからないあの冷めた表情も、その裏の優しさも羽華なら知ってるんだろう

だから、それを彼の幸せを願って手放そうとしている羽華は、本当に強いと思う

「雅樹」

『ん?何、なんか、元気ねーの?』

私が雅樹の全部をわかってるように、雅樹も私の全部をわかってくれてる

羽華は、一生、九条先輩を好きでいると思うって言ってたけど、もし、九条先輩が羽華じゃない相手を選んだんなら

羽華は別の誰かに目を向けて、そんな相手を見つけて欲しい

それが私の願い

先輩の幸せを願うのもいいけどさ?親友の願いも叶えてよ…

『大丈夫か?』

「うん、ありがと」

『っ!別に!!つか、早く迎えに来いよ、お前の学校広すぎなんだよ…』

「はいはい、今どこ?」

『んー……』

昔と変わらない低くて落ち着く声

私は、もし

彼が私じゃない誰かを好いたとしたら、背中を押し出せるだろうか?

羽華のように、相手に想われなくても、想い続けることができるだろうか

「雅樹、」

『どした』

「…早く会いに来てよ」

『…すぐ行く』

プツンっと勝手に切られた電話

え、迷ってたんじゃないの?

今頃オドオドしてるんだろうな

しょうがないな、迎えに行くか


ねえ、羽華

羽華は先輩が紗夜だかのことが好きだって言ってたけれど

私はね?

九条先輩は、羽華のこと……




     ちゃんと特別に想ってると思うんだ



~菜留side 終~