未だに腰に回っている手に、私の手がぶつかっていて、そこから先輩の体温が伝わる

平熱の低い先輩

間反対の私からすると、先輩の体温が心地いい

その温度差に若干、眠くなっていたら、


「羽華」

「はいっ!!」

すぐそばで聞こえた声に体を震わせる

半開きになった目蓋を思い切りかっぴらいて、少しだけ顔を先輩に向ける

「な、何でしょう?」

「…寝てた?」

「い、いーえ?」

「寝てたよね」

「……」

口を結んで目をそらせば、ふふっと笑う声が聞こえた

あまりに優しすぎる笑みに思わず見惚れてしまう

恥ずかしくなって俯いていたら、


「…ね、今日の一時、裏庭ね」

「へ?」

俯いていた私の顔を覗き込むように首を傾げてそう言った先輩は、少しだけイタズラするように笑うと、私の頭を撫でた

「そ、それはデートのお誘いですかね?」

「いや、デートは違うかな」


意地悪に笑うと締めていた黒いネクタイを緩めた先輩

スラリと綺麗な首筋さえも、何もかもが完璧

「わーい!!先輩との初デート、何して欲しいですか?ステージジャックして登場しちゃおうかな?」

「…いや、普通に来てよ」

そこで、一度私の頭に手を置くと、そこでようやく足の上から私を下ろして、離れていった先輩を見上げる

フワフワと私の視界で揺れる先輩

ここにいるはずなのにどこか違う世界に取り込まれていくような

気持ちはどこか違うところにいるように見えて、私の心はざわついた

目の前にいるのに

いつも、隣にいるのに

全然足りないの

先輩は、私のことちゃんと見えてますか?



今日は学校祭

そう、

「紗夜さん、今日ですよね?」

私の言葉に湊先輩は、揺れる視線を逸らすと苦そうに顔を歪めると、真っ直ぐに言った

「うん、まあ羽華が気にすることはないから」

「でも、」

「学校祭、楽しみな?」

じゃあ、またね

私の話を切り上げて、顔を剃らしてしまう先輩

苦しそうな顔も、苦い顔も、切なそうな顔も

今までずっと先輩を目で追ってきたけれど、私は、見たことなかったよ?

そんな特別な顔を紗夜さんには向けるの?


先輩の揺れる瞳も、揺さぶられる心も全部、全部私に向けてほしいなんて欲張りなのかな

だって、私にはそんな顔、絶対してくれないでしょう?

モヤモヤと黒くなっていく私の心なんて知らない先輩は、ゆったりと歩き始めた

先輩の背中を見ながら思ったの

ねえ、先輩


先輩は自分でも気づいてないだけで…


本当は……、



紗夜さんのことまだ好きなんじゃないかな