見れば伊波は物欲しげな視線で俺を見据えていた。
静寂に支配された部屋のなかでは、時計の秒針の音と俺達の荒くなった呼吸音がやけに大きく感じられた。
俺は伊波と視線を合わせたまま生唾を飲んだ。


「間瀬も気になるよね?キスってどんな感じなのか」


伊波のその問いかけが引き金となり、脆くなっていたストッパーがついに壊れてしまった。
ずっと我慢していた感情が噴水のように勢いよく溢れてくる。
気が付けば俺は伊波の両手首をしっかりと掴み、そのままベッドの上に押し倒していた。
スプリングが軋む音がしたが気にせす、俺は目を見開いている伊波に食いつくようなキスをした。
舌を入れれば、さっき食べていた駄菓子の味だろうか。まだ微かに残っていた爽やかなラムネの味が、ほんのりと口内に広がる。

俺は所詮本能には勝てない、愚かな人間だった。


「……っ、ごめん……」


我に返った俺の第一声は情けないことに謝罪だった。
唇を解放してやった伊波の顔を直視することもできず、俯いたままベッドの上から身を引く。

俺はなんてことをしでかしてしまったのだろう。
いくら伊波に想いを寄せているとはいえ、伊波には彼氏がいるんだぞ。
俺だって彼女がいるのに、どうしてこんなことを……。