瞬時に空気が張りつめるなか、彼は小さく嘆息した。
「……結構です。やはり、私の意図はご理解いただけてないようですね」
びしりと、その場の空気が凍った気がした。さぁっと青ざめる男の目の前で、ギルベールの手が、肩が、小刻みに震えている。
終わった。あとはもう泥沼のぶつかり合いだけだ。執務室に吹き荒れるブリザードのごとき議論を思い、男は半泣きになって胃のあたりを押さえた――。
「――こちらと、こちらの間。昨年までは、もう一行程、式が組まれていたはずです。無くしたのはなぜですか」
「は……?」
(え……?)
細い指で示しながら静かに見上げられ、男もギルベールも虚を衝かれて、一瞬答えることができなかった。
いつものエリアスであれば、的確な駄目出しが淡々と始まっている。途中でギルベールが切れて言い返すが、にべもなく冷たくあしらわれ、最終的に決別、となるのが常だ。こんなふうに、静かに意図を問われたのは初めてだ。