儀典長はいま、本年度の建国式典の予算案を通す説明するため、エリアス・ルーヴェルトの執務室に向かっている。
そのお供に、誰が行くか。儀典室の誰もが嫌がるなか、ギルベール儀典長が見ていない隙にじゃんけん大会が催され、結果びりっけつとなった男がギルベールに伴って宰相室に行くこととなったのだ。
逃げたい。今すぐ家に帰って、愛猫を膝にのせてモフりたい。
そんな現実逃避もむなしく、ふたりは宰相執務室に到着し、ギルベールとエリアスが顔を合わせてしまった。
「…………」
「…………」
「…………」
ぱらり、ぱらりと、紙をめくる音だけがやたらと大きく響く。
感情の読めない瞳で書類に目を通すエリアスと、それをじっと見下ろすギルベール。ふたりの間に流れる空気は温度が下がっていく一方で、男はごくりと息を呑み込んだ。
そのとき、最後のページまでめくらず、エリアスが書類から手を離した。