〝儀礼の重要性を理解することと、国費を湯水のように垂れ流す現状を見て見ぬふりをすることとは別問題です。必然か否か、その検証をしないまま『これまでもそうだったから』で押し通すのは、職務の怠慢というものではありませんか〟

 エリアスの言い分はド正論だった。歴代の宰相がそこはかとなく思いつつも敢えて言わなかっただけで、改めて言葉にしてしまえば反論の余地はまるでなかった。

 儀典長のダメージは大きく、ずたずたにプライドを切り裂かれた。だからこそ彼はキレた。それはもう、猛烈に反発した。

 以降、宰相と儀典長の関係は水と油、混ぜるな危険の様相を帯びていた。式典、祭事、ことあるごとにふたりは対立した。無駄か、必然か。効率か、伝統か。平行線をたどる議論は回数を重ねるごとに熾烈を極め、周囲の者を戦慄させた。

(ああ、くっそ……! あのとき、グーを出しておけばっ)

 このあとのことを想像し、じゃんけんに弱い己の右手を呪った。