ローウェン・ギルベール儀典長とエリアス・ルーヴェルト宰相。そのふたりの関係は、たびたび龍と虎、蛇と獅子、犬と猿といったもので言い表される。

 事の発端は、シャルツ王の治世となってから初めての建国式典。そのために組まれていた国家予算について、無駄が多すぎるとエリアス・ルーヴェルトが指摘をしたのが何もかもの始まりだった。

 それまで式典といったものは、長い歴史の中で脈々と受け継がれてきた経緯もあり、よほど戦争や大規模飢饉といった非常事態でも起きない限りは潤沢な予算のもと絢爛に執り行われていた。たまに同じように経費の見直しが議題に上がるものの、結局は「豪華な式典は国家の威信の現れでもあるから」と有耶無耶になるのが常であった。

 だからこそ、ギルベール儀典長の対応も慣れたものだった。まだ年若い宰相にはピンとこないこともあるのだろう。王国の歴史を知る年長者として、ここは上手く導いてやらなくては。そんな考えのもと、絢爛なる式典の重要性をとくと説き、要は丸め込もうとしたのだ。

 しかし、ここで丸め込まれないのがエリアス・ルーヴェルトだ。それどころか、早々に儀典長の目論見を見破ったらしい彼は、より冷淡に儀典長に予算案を突き返した。