メイス国、シャルツ王の居城、サンルース城。そこが、メイス国の政治の中心でもある。
宰相エリアス・ルーヴェルトを筆頭に、財務大臣、法務大臣と大臣クラスが軒並み名を連ね、その下には彼らが抱える文官が日夜走り回っている。
そんな中、宰相の役割は何かと言えば、王と大臣とを繋ぐ双方の相談役かつ、各大臣から上がってくる報告・提言の実質的な判断役――いわば、政治面におけるトップである。
特にいまの王、シャルツ王はどちらかと言うと軍人寄りであり、乳兄弟であり幼馴染であるエリアス・ルーヴェルトを信頼し、政治のほとんどを任せている。もはや、メイス国で起きることで、エリアス・ルーヴェルトが関わらないものはゼロと言っても過言ではないだろう。
そんなわけだから、大臣であれ、一文官であれ、政務に携わる以上は宰相との関わりは深い。――深いのだが。
(あぁ……、なんで負けちまったんだ)
サンルース城で働く文官のひとり、儀典室に所属するとある男は、シクシクと痛む胃のあたりを押さえながら、そのように己の不幸を嘆いた。そんな彼の前には、先導して宰相執務室へ向かうギルベール儀典長の背中がある。