「歴史に、大きいも小さいもありません」
エリアスがゆっくりと首を振る。長い髪が、はらりと肩から零れ落ちた。
「穏やかであたたかな治世――貴女がそう表現してくださった先にあるのは、ひとりひとりの笑顔と安寧です。この国に暮らすひとびとの人生が歴史として積み重ねられ、この国の歴史を形作るのです」
「なんだか、壮大な話ですね」
「ええ。壮大です」
こくりと頷いて、エリアスは穏やかにほほ笑み、フィアナを見つめた。
「しかし、私はそんな風に思いながら仕事をしています」
そう告げたエリアスの瞳があんまりまっすぐなので、フィアナは目をそらすことが出来なかった。まるで――まるで、茶化すこともふざけることもしない、等身大でありのままの姿を、初めて見せられたような気がした。
その時、フィアナの胸の中のどこかで、きゅんっと小さな音が鳴り響いた気がした。今のはなんだろう。フィアナがそう首を傾げたとき、エリアスがはっと我に返った。
「す、すみません! 私としたことが、少々熱く語りすぎてしまいました」