ますます身を縮めるしかないエリアス。そんな彼に、フィアナはあっけらかんと言った。
「お金なんていりませんよ。私が勝手に、おにいさんを拾っただけですし。でも、酒場の娘としてこれだけは注意しておきます。酒は飲んでも呑まれるな、ですよ!」
「しかし、それだけではあまりにも……」
「おにいさん、『限界』だったんでしょ?」
そう顔を覗きこまれ、エリアスは不覚にもどきりとしてしまった。あまりに驚いた顔をしてしまったのか、フィアナは「別に、聞くつもりはなかったんですけど!」と弁明した。
「うわごとで何度も言っていましたから。疲れた。もう嫌だ。限界だって。私はおにいさんのこと全然知りませんけど、そうやって呻いている寝顔は本当に辛そうで。なんだか放っておけないなあって、つい家に泊めちゃったわけです」
照れ隠しのように笑って、フィアナが小首をかしげる。そんな何気ない仕草なのに、なぜだか目が離せない。
「たまにはストレス発散、いいじゃないですか。あんな風に飲みたくなっちゃうくらい頑張って、耐えてきたんでしょ? それなら、恥ずかしがる必要なんてちっともないじゃないですか」
きゅん、とどこかで鈴の音のような聞こえた気がした。どこからだ? たぶん、自分の胸からな気がする。とすると、この音の正体はなんだ。
なるほど。これが恋に落ちる音か。