仕事をしている姿は初めてみたが、まるで別人のようだ。お店にいるときの彼はほわほわと柔らかな雰囲気で、口を開けば本気とも冗談ともつかぬ発言ばかり繰り出す気さくな人間だ。しかし、『宰相』として目の前にいる彼は、ぴりりと張りつめた空気を身に纏い、迂闊に話しかけられないような印象を与える。
氷の宰相。エリアスがそのように呼ばれていることを、フィアナは今更のように思い出した。
ところで。
(エリアスさん、警備隊のひとと何を話しているんだろう……?)
警備隊は街の治安を守るのが仕事で、街中でもたびたび制服を見かける。しかし、エリアスと話している男は、普通の警備兵とは少し制服のデザインが異なる。おそらく偉い立場の人間なのだろう。
そんな人間が、宰相であるエリアスと話し込んでいる。もしかして、何かしら大きな事件が起きている最中なのだろうか。真剣な表情で警備兵の話に耳を傾けているエリアスの姿に、嫌な予感ばかりがむくむくと膨らんでいく。