財布は……あった! 畳んであった衣服と一緒にあった。けれども、勢い込んで袋を開いたところで、エリアスは愕然とした。いつも、いくらか持ち歩いているはずの金が、雀の涙ほどに減っていたのだ。

 それで、エリアスはうっすらとだが思い出した。昨夜、ひとりで飲み暮れていたところで、別の客に呑み比べを持ち掛けられた。昨日は無性に酒に溺れたい気分だったし、すでに酔っていたしで了承してしまったが、それがよろしくなかった。

〝あーあ。潰れちまって。ま、俺の勝ちってことで、ここの飲み代頼むわな!〟

 豪快に笑いながら、去っていく背中。それが、かろうじて思い出せた最後の記憶である。

「え、なに? どうしました? まさか、やっぱり身ぐるみはがされちゃってました?」

 財布をのぞいた途端うちひしがれてしまったエリアスを、フィアナが心配そうに見つめる。そんな彼女に、エリアスは力なく首を振るしかなかった。

「いえ、そういうわけでは……。しかし今の私は、ほぼ一文無しでして」

「なんだ、飲み代に消えちゃったってことですか? おにいさん、見かけによらず豪快なんですね」

「う、面目ありません」