幸いエリアスがいつものあの調子だったので、喧嘩に発展せず助かったと。フィアナはそんな風に呑気に考えていた。ほかの客の対応をしながら盗み見ていた彼女の目には、マイペースなエリアスにマルスが突っ込みを入れているようにしか見えなかったのである。
と、そんなことを思いながら、街一番の大きさの大聖堂のまえに差し掛かったときだった。
(あれ? なんだか、この馬車見覚えがあるような……)
聖堂の前に止められた馬車に、フィアナは首をかしげる。黒い車体に、金の装飾。一般庶民が乗るような乗合馬車とは全く異なる、洗練されたデザイン。
壁の縁に立って、ひょこりと大聖堂の敷地を覗き込む。そして、心の中で叫んだ。
(やっぱりエリアスさんだったーーー!)
仕事中なのだろう。なんどか見かけたことのある宰相服に身を包んだエリアスが、聖堂の正面入り口前で、警備兵と何やら話し込んでいる。
(エリアスさん、普段はあんな感じなんだ)
珍しい光景に、フィアナはしげしげとエリアスを観察した。