「そうでしたか! マルスくんは、ニースさんの息子さんでしたか!」
「ええ、まあ」
にこやかに頷き、エリアスがマルスを見る。けれども、対するマルスの顔には笑みの欠片もなく、胡乱げな目でエリアスを見返すだけ。そんな二人を、カウンターの向かいからフィアナははらはらと見守った。
あのあと、エリアスはマルスのすぐ隣の席を選び、なんとなくフィアナ・エリアス・マルスの三人で話す流れとなっている。だが、にこやかに話しかけているのはエリアスばかりだ。
(マルス、さっきも相当エリアスさんのこと、怪しんでいたからなあ)
エリアスが来る前に話していた内容を思い浮かべて、フィアナはううむと眉根を寄せる。
隣国への出張でしばらく顔を見せなかったエリアスが、最近になって再び店に通うようになったことを、どうやらマルスは父親から聞きつけたらしい。
「エリアス=庶民の娘に遊びで手を出そうとするゲス貴族」と疑っている彼は、エリアスの来店復活を当然ながらよく思ってはいない。それで、エリアスには気を付けろと、ちょうどそんな話をされていたのである。