しばらくして、フィアナに宥められていくらか落ち着いたらしいエリアスは、それでも店の前の段差に座ってうじうじとひざを抱えていた。
「……実は私、今日のお昼にお隣の国から戻ってきたんです」
「はい、え、はい!?」
一瞬流してしまいそうになったが、慌てて聞き返す。するとエリアスは、呪詛の籠った声でぐちぐちと先をつづけた。
「本当は別の大臣が行くはずだったんですが、出発当日にぎっくり腰になりまして。それで、陛下が代わりに私に行けと。……そりゃあ、いつ何時、何があるかわかりませんから、常に最低限の荷物は整えていますよ。けれど、普通は日程を遅らせるとか、やりようがありますよね。それが、日程はそのままで今すぐ隣国へ発てだなんて……。ちょっと隣の町に行くのとはわけが違うんですよ……」
「だから、このひと月、お店にも来れなかったんですね」
「そうなんです!!!!!」
苦悶の表情で勢いよく頭を抱えたエリアスに、自分が心のどこかでほっとしているのに気付く間もなく、隣に座るフィアナはびくりとその場ではねた。
「フィアナさんに一か月も会えないうえ、行ってらっしゃいのハグも、行ってらっしゃいのキスもしていただけなくて……。おかげでこのひと月、私がどれだけ、フィアナさん不足で枯れはててしまいそうになったことか……!」
「仮に出発前に会えてたとしても、キスもハグもしませんでしたからね?」