忙しくなったのかもしれない。体調を崩したのかもしれない。店の味に飽きたのかもしれない。ほかにお気に入りの店ができたのかもしれない。
あるいは、フィオナにかまうのに飽きたのかもしれない。
空に浮かぶ月を見上げて、フィアナはほうと息を吐いた。
マルスの言う通りだ。エリアスがどんなひとで、どんな考えのもと店に通っていたのか、本当のところはこれっぽっちも分かりようがないのだ。
フィアナに目を付けたのは気まぐれで、からかって面白がるために店に通って、それらに飽きたから店に通うのもやめた。そういう可能性だって、十分あり得る。
(…………本当にそうだとしたら、ものすっっっごく腹立たしいな)
テヘっと舌を出すエリアスの顔が自然に浮かび、フィアナは看板を片付ける手にぎりぎりと力を込めた。いつか機会があったら殴ってやろう。
そんな機会、二度と来ないかもしれないが。
そこに思い至った途端、ちくりと胸が痛んだ。