「……わたしにだって、限界があるんですよ」
思わずぴたりと動きを止めて、聞き耳を立てる。そんなフィアナの様子を知ってか知らずか、男はすすり泣きの間に続ける。
「なのに、誰もかれもが、あれはどうした、これはどうした、こっちを助けてくれ、あっちをどうにかしてくれ……。わたしはなんなんですか、あなた方の奴隷なんですか!?」
はぁぁぁぁ、とフィアナは盛大に溜息をついた。
いい年した大人が、酔いつぶれて、行き倒れて、何やらすすり泣いている。これを知らんふりをできるほど、鋼の心は持ち合わせていない。
フィアナは仕方なくくるりと振り返ると、つかつかと男のもとに歩み寄り、男の肩をゆさゆさとゆすぶった。
「はいはーい。つらいのはわかりますけどー。ここ外。こんなところで寝ていたら、寒くて凍えちゃうか、誰かに身ぐるみひっぺがされちゃいますよー?」
「……わたしは、わたしはっ」
「あー、もう、だめだコレ。おにいさーん? ちょっと失礼しますよー。支えますから、立ってくださいね。せーの!」
店の壁にもたれかかってぐったりしていた背中に手をまわし、ぐいと引っ張る。さすがにフィアナひとりの力では持ち上げられなかったが、男はヨロヨロと立ち上がってくれた。それでも正気に戻るには至らなかったのか、尚もぶつぶつと呟いている。