(いやあ。今日もしっかり、稼がせてもらっちゃったな)

 そろそろ帰るというエリアスを見送りに外に出ながら、フィアナは今夜の売上を思ってほくほくとほほ笑んだ。噂のイケメン宰相を覗きに来たご婦人方も入れて、今夜も店は満席。前週に比べて売上は大幅アップとなっていることだろう。

 そんな風に喜ぶフィアナの内心は知らずに、エリアスもまた幸せそうに微笑んだ。

「今夜もありがとうございました。今日も楽しいお酒と、美味しい食事と、天使で可憐でマイスウィートハニーなフィアナさんでした」

 あ、やっぱりこの人面倒くさい。そう思ったとたん、フィアナのなかで『良いお客さん』から『面倒くさくて残念な変な人』へと天秤の秤が大きく振れた。

 もはや、もう何も突っ込むまい。そう固く決意をして、フィアナは笑顔のまま彼の背後の馬車を指し示した。

「楽しめたのなら良かったです。さ、さ。明日も早いんですよね? 早く馬車にお乗り下さい。で、お風呂入って寝てください」

「フィアナさん……。貴女を置いて帰ろうとする無慈悲な男を、そのように気遣ってくださるなんて……。貴女はどこまで慈しみ深いのでしょう……」

「いえいえ。可及的に速やかにお帰りいただきたいなあって、それだけですよ?」