フィアナは困っていた。
閉店作業を行おうと外に出たら、店の前でイケメンが酔いつぶれていたのだ。
「ちょっと、おにいさーん……?」
下手に刺激しないように、恐る恐る声を掛ける。仕事柄、酔っ払いの扱いには慣れているが、酩酊した者が時として予想外の行動に出ることは往々にしてあること。見たところ手荒な真似に出るタイプには見えないが、用心に越したことはない。
それにしても、この辺りでは見ない男だ。緩く結ばれた長髪は白銀に近いほど色素が薄く、気分が悪いのか若干顔をしかめてはいるものの、細い面差しは美しく整っている。そして何といっても身なりがよい。くるまっているローブだって、そんじょそこらの町人には手が出ない品だろう。
(なんでうちの家の前に、こんな身分の高いひとが……)
本能が告げている。これは関わったら面倒くさいヤツだ。
扉にかかる札をひっくり返し、「閉店」の面にする。そうしてフィアナは、何事もなかったのように扉を閉めようとしたが――。