「なんだ、航成くんか~。驚かせないでよ」

声をかけたのは小春と同じ専門学校へ通う富原航成で、一年の頃からグループで仲の良い友達だ。

「ごめんごめん。ちょうど通りかかったからさ。おにぎり屋、板についてるじゃん」

「そうでしょう?いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

少しハニカミながら笑顔を向けると、航成はじゃあ…とおにぎりを選び始めた。航成以外しばらく客足も途絶えたので、二人はカウンター越しに少しおしゃべりをした。学校以外で会うことや自分が働いている姿を見られるのは、妙な特別感があってちょっぴりくすぐったい気持ちになる。

「……こんにちは」

「あ、いらっしゃいませ!」

二人で談笑中、新たな客が来て、小春は慌てて挨拶をした。

「注文いいですか?」

「え、あ、はいっ」

「じゃあ俺行くわ。またな小春」

「うん、ありがとう航成くん」

航成は小春にヒラヒラと手を振ると、おにぎりの袋を持って足早に去って行く。小春も小さく手を振り返し、すぐに目の前の客に向き合った。