「真くん…。真くんの方が真面目に頑張ってると思うよ? 副社長の息子だって皆んなわかっていて、それでも店舗を回るのは大変だもの。」

そうだ。入社早々、真くんは店舗スタッフとして頑張ってきた。
もちろんそれは、朝倉コーヒーにとって1番大切な事だから。一つ一つの店舗を知り、店がどのように回っているのか。客が何を求めているか。店に実際に入って肌で感じた事のないトップには、社員がついていかないから、これは通らなければいけない道。今は2年目で、まだまだその修行の最中。色々大変なことも多いと思う。

「でも俺は、何も出来ていない。ただ言われた通りに店舗勤めをして、その中で企画が生まれたわけでも、新しい淹れ方を発見したわけでもない。」

真くん…?

「なあ、ずっと思ってたんだ。花は社長の娘なのに、女の子ってだけで、跡継ぎから名前が外されていた。花は朝倉を継がなくて良かったのか? 継ぎたいと思わなかったのか? …今さらかもしれない。でも、結婚して名前が変わったとしても、社長の娘である事は変わりない。朝倉を継ぐ事はできるよ。育休が終わったら職場復帰するんだろう?」

「そのつもりだけど…。
でも、真くん…それは違うよ?」

「俺は…社長の考えをそのまま受け継いでいる花の方が、跡継ぎにふさわしいと思う。」

「真くん…」