ああ、もう分からない。

君の言葉が本心なのか演技なのか。



今までは完璧に見分けられていたはずだ。


僕の思い込みかもしれないが。それでも何か決定的に違って見えたはずなのだ。



だけどもう今の君の言葉は見分けられない。




そうして直感した。


君はもうとっくに、僕の手の届かないずっと遠くまで階段を上っているらしい。



それから君は何かいいたそうに少し口を動かしてから、しかし結局何も言わずにっこり笑ってじゃあ、とだけ言って小さく手を振った。



おう、僕も手を振り返す。

君はそれを確認するとそのまま満面の笑みを残して、とうとう僕に背を向けたのだった。



君がカエデ並木の中を歩いていく。

その後ろ姿はひどく優雅で目を奪われてしまう。


君はカエデが本当によく似合う。




カエデ並木と楓。



絵画のように美しく鮮烈なその光景が僕の網膜に焼き付いていく。

僕はこの光景を一生忘れられないのだろう。


瞼を閉じるたびにカメラのシャッターを切るように映像がストックされて、色濃くなってゆく。




カエデ並木に君の後ろ姿。



これ以上美しいものに今まで出会ったことが無かったし、この先も出会うことはないのだろうと、僕はその時確信したのだった。