別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます。



川端康成の小説の中の一節である。


川端康成とはいえ名前を知っている程度で作品はひとつも読んだことはないけれど、評価され後世にまで言い伝えられる文豪の言葉にはやはりそれほどの説得力があるらしい。


僕はそれを毎年身をもって体感している。



それでもまだ花なら良かった。

どれほどよく咲いている花でも咲いている場所は限られているし、花は小さいから。


君はもっと大きな記憶を僕に焼き付けて去って行った。




僕は紅葉をみると君を思い出してしまう。


正確にはカエデ。


でもたくさん赤く染まった葉を付けている木がいちいち何の木かなんてすぐに見分けられず、紅葉している木を見ると君を思い出してしまうのだ。




楓、それが君の名前だった。




もう5年も前になるのに。

君のいない秋はもう5回目だというのに。



今でも鮮明に思い出してしまう君の後ろ姿に、僕はまだ囚われているのだ。