そうこうしているうちに、ゆったりと会場を満たしていた音楽がテンポを一定にした曲調へと切り替わる。

「ダンスが始まりましたわね」

 学友たちはパートナーや親しい知人などを見つけて手に手を取り歩き出す。彩り豊かなドレスと凛としたスーツがくるりくるりと踊る様は、見ているだけで気分が高揚していく。花々の中へと迷い込んだようにうっとりその光景を見つめていた。

「レディ、踊っていただけますか?」

 ぼぅ……と見入っていると、差し出された手。
 それは学園で異性とペアを組む時にお世話になっている学友の一人で、普段とは違う繕われた態度に思わず吹き出した。

「あら、ロイエル様。パートナーはよろしいの?」
「従妹もあちらで踊っていて暇なもので」
「それなら暇つぶしにお付き合いさせていただきましょう」

 手のひらに指先を乗せる。ロイエル様はホールの中央へと促すように手を引いて、わたしたちは足を進めた。
 途中、こちらを凝視するルーカスと目が合って、だから安心させるようにゆったりと微笑んでみせる。

 昨年の今頃はお茶会で親しくなった女の子のお友達はいても、まだまだ受け身なばかりで積極的に友人関係を作ることが出来なかった。だから随分と心配させていたと思う。それも今では交友関係を少し広げて、こうしてダンスを申し込んでくれる異性の友人も出来た。

 兄様たちの影に隠れてばかりいたわたしではなくなったのよ。成長を見てほしくて。
 くるり、ふわり、ドレスの裾を揺らし踊りながら小さく笑うと、どうしたのかとロイエル様が顔を寄せる。

「うちのお兄様たちが見ているの。心配性よね」
「……どこの馬の骨の誘いに乗ってんだってところか?」
「あなたの身元は確かじゃない。わたしが足を踏んだりつまずいて転ぶんじゃないかって不安に思っているんだわ」

 会場のあちらとそちらから向けられる視線。たくさんの人たちの中でもわたしの姿を見つけてくれるのはさすがだと思う。
 お兄様は小さく手を振ってくれているけど、ルーカスなんてなんだか気もそぞろな様子、お友達に失礼になっていないといいのだけど。