「差し出がましいことをいたしました」

 手を繋いで戻った私たちをテラスで迎えたエンリックとアンヌ嬢は、揃って頭を下げた。神妙な友の様子に先ほどまでの緊張がゆるみ、漏れた吐息は思いがけず深々としたものとなった。

「口出ししないという約束ではあったんだけど、その、僕では上手く口がというか、頭が回らないから、」
「いや、ため息のつもりじゃなかったんだ。私のぎこちない説明をエヴィが受け入れてくれたのはアンヌ嬢の援護のおかげだろうから、感謝している」

 慌てて弁明するエンリックの肩を叩く。二人で相談して決行したための謝罪か、独断で行ったアンヌ嬢を庇ってのことか、私には分からないが。それが私たちを思ってのことなのは確かなのだろう。
 食事の席でのアンヌ嬢とエヴェリンの予期せぬ会話の流れには驚かされた。終始落ち着いていたアンヌ嬢の滑らかに進む話の展開に、口を挟むことが出来なかった。さすが年上だけあるというところか、それとも使用人として社会を見てきたからこそなのか。

「なんだよ、また怒らせたかと思ったのに。誤解されるようなことするなよなぁ」
「まったくだな」

 まさしくそんな話題を笑って話せるようになったことが、心底から嬉しい。

「アンヌ様、色々とお気遣いいただいてしまって、ありがとうございました」
「いいえ、エヴェリン様に仲良くしていただきたくて、つい勝手をしてしまいました」
「勝手だなんて。お話を聞かせてくださってとても嬉しかったです。これからよろしくお願いいたします」

 ぎゅ、と力を込めた手に反応して、きゅ、と握り返される手。締まりのない顔を逸らせば、空には眩いばかりの星がきらめいていた。