「エヴェリン・オルレア嬢、」


 名前を呼ぶ声が掠れ、一呼吸置く。目の前に跪く私を見下ろすエヴェリンの瞳は、星明かりに陰になっているというのに潤みを帯びているのが分かった。
 頬に触れ、涙が滲み出してきそうな目元を拭ってやりたい。……そんな不埒な思いを呑み込んで、身を守るよう握り合わさっている手をそっとほどいて握る。


「どうか話を聞いて欲しい」


 触れ合う細い指先がぴくりと震えて、まるで逃げ出そうとしているように感じる。だからといって、ここまで来て逃がすはずもない。
 あくまでも優しく、それでいて離したくないという意思が伝わるように強く、握り込む。

 君に愛を、許しを乞う。

 揺れる瞳を見つめ跪いたまま、何もかもを包み隠さず吐き出した。取り繕うことのない、頼れる兄にはとても見えないだろう本心の私。ルーカスというただ一人の情けない男としての素顔を晒した。
 今回の事情説明も、抱いていた嫉妬心も、息苦しいほどの恋慕も、


 ――私には君しかいない、エヴェリンしかいらない。


 エヴェリンは黙って話を聞いてくれた。自分でも言い訳がましいと思ってしまうような話だというのに理解を示してくれて、ちっとも格好のつかない告白も頬を染めて、あまつさえ嬉しいと、自分も好きみたいだと言って受け入れてくれたものだから、湧き上がる衝動に負けてつい抱き締めてしまった。彼女は首筋まで赤らめて、昔とは異なる反応に愛おしさが溢れ出す。

 ああ、本当に、この子は。
 大切にしよう。これまでより、もっともっと。二度と泣かせることのないように――。