エンリックとアンヌ嬢にも協力を仰いだ。
原因の一端となった人間に頼るというのはなんだかおかしな気もしたが、別に彼らが何事かをしたわけではない。それに彼女に信じてもらえたなら遠からず顔を合わせることにもなるだろうし、逆に彼女が離れていくことになったなら紹介する機会も失われてしまうかもしれない。二人の話を目を輝かせてねだってきた彼女だからいつか紹介したいと、……それがこんな状況下になるとは想像もしていなかったが。
そもそも、広がった噂を鎮めるためにも彼らとの協力は不可欠だ。
まだ私の名前だけが出ていて相手がどこの誰とも言われてはいないようだったが、アンヌ嬢が社交界に顔を知られるようになれば特定されることになるかもしれない。リックたちとは当事者として力を合わせなけらばならないだろう。
身近な中でもっとも影響力のあるはずの母上にも当然頼らせてもらうつもりでいるのだが、あの人は息子の婚約破棄の危機だというのに焦りも何もありはしない。始まりとなったデートのキャンセルについても、母上は彼女に宛ててお詫びの便りを出したと言っていたが……それもどうだか怪しいものだと思っている。
使用人を含め、ランドール家の人間の耳には入って来ていない状態だったため対応が遅れたが、すでに学生時代の面々には事情を記した書面を送っている。何通か返ってきた手紙には、ルーカスらしくないなというものから、これまでが順調過ぎていつか何かあるんじゃないかと思っていたなんて失礼なものまであった。それでも婚約者への私の可愛がりようを知っているだけに噂を知る者も信じてはいなかったようで、少なからず安堵した。
私のことばかりならまだいい、私ではなくエヴェリンの不名誉となってしまうことだけは避けなければならないのだから。