「エヴェリン」
セルジオが呼びかける声に、ハッと目の前に意識が戻る。
「遅いから迎えに行こうかと思ったよ」
「ごめんなさいお兄様。お友達とおしゃべりしていて」
ひさしぶりに顔を合わせたエヴィに胸が震えて、その顔色の悪さに胸が軋む。
噂のせいで、私のせいで思い悩ませ傷付いているというのは確かなのだと知る。実際に彼女の姿を見るまでは、セルジオが大袈裟に語っているだけで実際には呆れて嫌われたのではとの考えが浮かんでいたりもしていたが、どうもその可能性は低そうだ。
斜向かい、セルジオの隣の席についたエヴィは静かに目を伏せ、視線が合うことはない。
渇いた喉でなけなしの唾液を飲み込み、シミュレーションを思い出して微笑を浮かべてみせる。冷静に、平静に。
「やあ、エヴィ」
「……おひさしぶりです」
薄く笑みらしきものを見せるエヴィは、それでもやはり真っ直ぐにこちらを見てはくれずに、私がいることを教えていなかったセルジオに膨れてみせている。……表面上は、穏やかに。
ぎこちない態度は明らかで、和やかに見せかけているからこそ違和感が大きい。
「あのデートの約束、守れなくてごめん」
「いいえ。むしろお手紙と贈り物をたくさんありがとうございます、気を遣わせてしまって」
いつも愛らしいその声は硬く、丁寧で平坦。私との会話を拒む。エヴィの心が離れていることを突きつけられ、これまでにない距離感が胸を抉る。
セルジオが場をつなぐため何事もないように続ける会話に、せめてと相槌を打ちはするものの耳の表面を滑ってでもいくよう。エヴィの様子ばかりが気になって、セルジオとの会話が成立しているかも分からない。