「……私だってこんなことになるとは思ってなかったし、あの子には悪いと思っている」
「だったら、」
「分かっているくせに、酷いやつだな、お前は」
「君とあの子、僕がどっちを取るかなんて愚問でしょう?」
もう何もかも手遅れなのではないか、悪い方向に舵を切った想像は静かに進み私の心を蝕んでいく。
仮に彼女が婚約解消を望んだならば、私はそれを受け入れる他ない。自分の迂闊さが招いた事態なのだから、私に彼女の意思を拒むすべはないのだ。
「…………本当ならすぐにでも連れ去りたいさ」
本音が漏れてこぼれ落ちていく。
こんなことになって痛感した、親の決めた婚約者だなんてとっくに思っていないことを。自分自身で望んでその隣に立っているのだということ。自覚していないわけではなかったけど、あの子を失った人生なんて想像も出来ないことを心底から実感した。
「ならそうしてくれて構わないんだけどね」とセルジオは事も無げにつぶやくが、誰より許可の必要な本人が構うだろうと思えば身動きが取れなくなる。
――ああ、エヴェリン。
会いたい。会いたくない。……会いたい。抱き締めて、閉じ込めてしまいたい。渦巻く感情がぐらぐらと揺れ動き、不安と恋慕が混ざっていく。
彼女は話を聞いてくれるだろうか。彼女の意思なら受け入れなければという思いは本心なのに、それでもきっと、私はあの子が望んでも離してはやれないのだから、何をしたって許しを乞うて、信頼を得なければならない。