照れ隠しなのか何なのか、たびたび私の隣に立とうとするリックをアンヌ嬢に押しやってエスコートするよう促す。アンヌ嬢はといえば冷静なもので、そんな私たちを眺めては微笑んでいる。さすがエンリックに慣れているだけはある。
興奮状態で語られたデート計画だったが、時間にも体力にも限りはあるわけで、ひとまず落ち着かせて修正をさせる。そもそも機会はこれからこそなのだから、何度かに分け、先々で私を抜きでやって欲しいものだ。
二人が乗ってきたエメリス家の馬車を走らせたり、街中を歩いてみたり、あの子ならとっくに疲れてしまっているだろう強行コースにも顔色ひとつ変えないアンヌ嬢はなかなかにタフなようだ。
なんだかんだと時に少々揉めながらいくつものスポットを巡って、一息つこうと入ったのは最近話題のカフェ……ではなく、どことなく素朴な建物。リックはテンションを上げてズカズカ入っていくものだから、残された私たちは顔を見合わせてため息を落とす。
いつもご苦労様。そちらこそ。……といったところだろうか。
あとを追うようにしてドアを開けアンヌ嬢を通すと、そこには何故か得意気な顔で仁王立ちのリック。どうした、と声を掛けようとした私の前で、アンヌ嬢が急にパタパタと小走りでそちらに駆け寄る。
「おう、アンじゃねぇか。随分気取った格好してるな」
リックのそばに立つシェフらしき男が、強面をゆるませて笑った。
「……ポール。おひさしぶりです」
アンヌ嬢は普段の冷静な表情ではなく、まるで子供のような顔をして大柄な彼を見上げた。