「やあやあ、悪いなルーカス」
「本当にな」
「なーにしけた面してんだよ?」

 何度目のため息だろう、暗い顔をしている自覚はあったがそんなものは当然だ。大切な約束を蹴らされてここにいる。同じ王都にいるのなら彼女のもとへと駆けて行きたいに決まっている。
 まあそうはいっても、それを知るはずのない二人を前にこんな顔をしているのは失礼でしかないか。

「お前のデートに同行なんて、私が楽しみにしていたと思うか?」
「いつも遊びに出掛けるのとそう変わらないって」

 我が家のタウンハウスを訪れた二人は、片や美しい所作で礼を取り、片や遠慮なく肩に手を回してくる。すでにどちらがどんな身分だかといった状態だが、リックがこういう奴なのは昔からだ。出会った当初こそ青白い顔の華奢な女の子のようだったけど、そんなイメージは距離が近付くにつれ一変したのだった。

 それにしたって今日は特別浮かれている。鼻歌まで聞こえてくるのだから相当だ。しかし本来の関係性があるだけに、どうも恋人らしく街へと出掛けるのは初めてだと言うのだからそれも仕方がないかと思わなくはないが、

「観劇だろ、甘いものだろ、アンに似合う宝飾品なんかも見繕いたいし、ああそうだ、恋人に流行りのスポットってやつにも一通り行きたいよな」

 わくわくと目を輝かせるのは構わないから、それなら私にもあの子を呼んで来させて欲しいものだ。