「ご無沙汰しております、この通りお兄様ともども健やかな日々を送っていますわ」

 ドレスを持ち上げ礼を取ってみせるわたしに、彼はわざとらしく目を見開いて驚き顔を作った。

「しばらく会わない間にすっかりレディになったみたいだ」

 そう言うルーカスこそ、さらにすらりと伸びた背中が逞しく、凛々しい雰囲気が漂っている。わたしも大人っぽく装ったつもりではいたけど、並ぶとやっぱり子供じみて見える気がした。
 以前似合うと言ってくれたからって黄色いドレスなんて選ぶんじゃなかった。春らしいし、花を模した髪飾りとの相性は抜群だと思うけど。着付けてくれた侍女のナディルにも申し訳ないとは思いながら、隠れてため息が漏れた。

「いつまでも子供じゃいられないもの」
「そう急がなくても、エヴィらしくいてくれればそれでいいさ。今日のドレスもとてもよく似合っているけど、もう少し可愛らしい雰囲気でも素敵じゃないかな」
「それは身内の贔屓目だわ」

 セルジオの妹のエヴェリンとしてならまだしも、ルーカスの婚約者のエヴェリンとしては、背伸びになるとしても、彼の隣にあって相応しい淑女となる必要がある。
 お互いに特別な相手が出来たなら解消することも想定されている関係ではあるけれど。それでも今は、このままいけば訪れる、未来の伯爵夫人として。

 ルーカスがわたしの手をすくい上げる。少しかさついた、大きくあたたかい手のひら。ゴツゴツして感じるのは、剣やペンなどを持ち慣れた人だから。
 深い色合いの金髪を撫でつけて固めたパーティー仕様の髪型に、秀でた額が目を引く。深く、それでいて優しい色合いの緑のスーツも、グラデーションになった刺繍の濃淡が美しく、とてもよく似合う。贔屓目なしに素敵なのはどちらだか一目瞭然。

「まあ婚約者の欲目が混じっていることは、否定は出来ない」

 ふ、と漏れた笑みに「ほら、そうでしょう」と小さくため息。
 大好きなもう一人のお兄様に恥をかかせたくないから努力しているのだというのに、妹の心兄知らずだわ。