決して自分が望んだものでも、選んだものでもなかった。
そもそも伯爵家の一人息子として生を受けた私は、物心ついた時には【こうあるべき】との枠の中にいて、自分の意思ひとつで決められることなどそうあるものではなかった。それでも、そう育てられ物分りのいい子供となった私にはさしたる不満もなく、だからそれについても、そんなものなのだろうと、受け入れていた。
三歳下の、婚約者。
幼くて、無邪気で、何の思惑もなく慕ってくれる。可愛い妹。
お互いに想う存在が出来れば解消される、その程度の緩い関係ではあったけど、だからこそ素直に可愛がることが出来たのかもしれない。
両家は親同士の仲が良かったために昔から家族ぐるみでの交流は頻繁で、子供を預け合うのも当たり前、彼女なんてある程度大きくなるまで実の兄が二人いると疑うこともなかったのではないかと思うくらいには、三人で一緒に過ごす時間は長かった。
周囲の目は年齢を重ねるごとに私を私としてではなく、伯爵領を治めるランドール家の嫡男として値踏みするようになっていく。変わらないのは、幼なじみのセルジオとエヴェリンだけ……というのは、さすがに思い込みだったのだろうけど。少なからず彼らの存在に救われていたのは確か。
「ルーカスおにいさま」
兄と呼んで駆け寄って、それが可愛くて愛しくて嬉しくて、抱き上げて微笑みあって。……そんな風に気軽に触れられなくなったのは、いつからだったろうか。
学園に入り毎日のようには会えなくなってからか、会うたび成長していく彼女の姿に、これまでとはどことなく異なる感情が湧く。
可愛いことは知っているつもりだった。それでも日に日に可愛く綺麗になる彼女に戸惑って、焦って、ああこの子と結婚するかもしれないのかと、むず痒いような、笑いだしたくなるような、不思議な気持ちに胸が高鳴った。