「……アンヌ様、淑女はそう簡単に謝るべきではないわ。あなたに非はないのだから」
「エヴェリン様こそ、こうした時は謝罪を受け入れるのが大人の嗜みですわ」
澄ました顔のアンヌ様の返しに、二人して笑う。
婚約者がそばにいながらにして他人と噂を立てられた彼女こそが被害者のようなものだというのに、惑わされているわたしにまでこうして気遣ってくださるなんて。わたしからすれば確かにぐっと年上ではあられるけれど、これが大人の対応というものなのね。これからも是非仲良くしていただかないとと心に決める。
「あなたとなかなか会えないと、随分と気落ちされていましたわ。目を離している隙にどんどん綺麗になってしまわれるから心配だと」
「まさか」
「あら。あの人もあなたと少し話していただけなのに慌てて奪い返しに来たって、おかしそうに教えてくれたんですよ」
アンヌ様こそがおかしそうに、楽しそうに笑って。
心当たりなら、あった。王女殿下の誕生祭での出来事。過保護で心配性が過ぎると、ただそう思っていたのに。
「自分にだけ懐いてくれていると思っていたのに、他の男性に笑いかけているあなたを見て気が気じゃないとか」
血が上る。続けざまに告げられる言葉に、なんだか無性に恥ずかしさが込み上げる。
妹にしか見られていないと思っていたのに。聞く限りそれはわたしが勝手にそうと思い込んでいただけなのかもしれない。
夜でよかった。初対面のアンヌ様に、こうも赤面した顔を見せるのははばかられる。