「ルーカスには随分と甘えてしまったけどね」
「本当にそうです。あなたが遅れて来た時なんて、どれほど居心地の悪い思いをさせてしまったことか……」
「お前は昔からそういうところがあるからな」
「悪いとは思ってるんだぞ?」
「だからお友達が少ないんですよ。いつもご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
一人で物思いに耽るわたしを置いて進む会話。
まるで母親のように頭を下げるアンヌ様と、そんな身内としての発言に嬉しそうなエメリス様。仲睦まじさが窺えてなんとも微笑ましい。
……だけど、待って。
「よろしければ次はぜひ、エヴェリン様もご一緒いただけると嬉しいです」
アンヌ様の瞳がまっすぐに、わたしに向けられる。
全てに思い至ったわたしは思わず立ち上がりかけるのを、すんでのところで堪え、乱れる息を飲み込むようにしてどうにか平静を保つ。
カフェや劇場、それは、彼が目撃されたその噂の、――?
「……あの、わたし……」
「そうだ、エヴェリン様。お庭を案内していただけませんか? 何度かお邪魔させていただいてはいるのですけど、夜のお庭も美しいのでしょうね」
微笑むアンヌ様はわたしの心を見透かしているようで、穏やかな誘いに素直に乗ることが出来た。