困ったように微笑むお兄様に胸が痛んだけれど、正直、もう限界だった。気持ちが悪い。息が出来ない。心臓は嫌に軋み、視界までが歪む。
 食堂を通り抜けて廊下を進む、教室へと徐々に早まる足。淑女たるもの走ってはいけない。だけど、


「――――エヴィ!」


 駆け出しそうになったところを呼ばれて、たたらを踏む。
 振り向かなくても分かっていた。それでもゆっくりと、追いかけてきていたルーカスを、振り向く。


「ごめん」


 そう一言、呟くように。

 いつもまっすぐ前を向いている眼差しはどことなく揺らぎ、曇った表情。何かを堪えているような、それは、罪悪感?
 そんな顔をするなら、辛そうに謝るくらいなら、さっさとさよならを告げてくれればいいのに。
 責め立てるような思いが湧き上がる。


 ……なのに自分からはどうしてか、言い出せなくて。