「噂にまでなっているのにそんなこと言うんだ?」

 口調だけはにこやかさを崩さないお兄様は、ここからは見えないけど笑顔で彼を刺しに行っているに違いない。
 ルーカスの逢瀬は密やかな噂となって広まりつつあることを、わたしもお友達から聞いたばかり。これまでの彼がわたしに付きっきりだったものだから、それが反動のように作用しているのかもしれない。会話を聞く限り、同様の流れでお兄様の耳にも届いてしまったのは明らかだった。

「私だってこんなことになるとは思ってなかったし、あの子には悪いと思っている」
「だったら、」
「分かっているくせに、酷いやつだな、お前は」
「君とあの子、僕がどっちを取るかなんて愚問でしょう?」

 お兄様は優しい。ルーカスも、優しい。だからこそわたしとのこの他愛無い関係を終わらせるトドメの言葉を言い出せずにいるのだろう。
 わたしのせいで二人の友情に亀裂が生じるなんてことにはなりたくない。割って入るべきか、それともわたしが入ることでより拗らせてしまうだろうか、正解が分からない。

「……本当ならすぐにでも連れ去りたいさ」

 呟くように吐き出された声は、きっと本音。
 ああそんなにも彼女のことを――。