「……明日はあなたのオススメのお店にでも連れて行ってもらおうかしら」
「もしかしてルーカス様のご都合が悪くなられたのですか?」
「キャンセルですって。埋め合わせはまた今度してくださるそうよ」
見慣れた筆跡で綴られた手紙は、ナディルに告げた通り、明日のデートを延期させてほしいという内容だった。すぐに届くよう手紙鳥を使用しているあたり、急遽予定が入ったことが窺える。彼のことだ、明日会うことが無理になったと分かってすぐに知らせてくれたんだろうと思う。
領地で問題でも起きたのか、逆に計画していたお仕事が順調にいきすぎて休みを取れないほど忙しくなったりでもしたのかもしれない。……体調を崩したり怪我をしたりといったことでなければいいけれど。
「まあ、それはお寂しいですね。いつもお会いになられる日を楽しみにしてらっしゃいますのに」
「あら、そんなことないわ。昔はそりゃあ楽しみだったこと否定はしないけど、今はほら、お友達もいるし、たまにはこんな日があってもいいわよ」
単純なもので、顔を合わせることにためらいがあったはずなのに会えないとなると残念に思えてくる。そんな自分が気恥ずかしくて、澄ましてみせた。
そんなこと、四六時中そばにいてくれるナディルにはお見通しなんだって分かってはいるんだけど。
明日はナディルと街を散歩がてら歩いて、ルーカスに何かお土産でも見つけて手紙に添えて送ってみようかな。
……なんてことを呑気に考えていられたのは、彼のことを兄として婚約者として信じていたからだった。この時は。まだ。