僕のものに手を出すな

「瑞希、帰ろ?」


「うん!」


微笑みを浮かべてそう言ってくれる彼氏に頷いた。

私の彼氏は北斗琥珀《ほくとこはく》っていう。
アッシュベージュのフワフワの髪で。
二重の大きな目で。
可愛くて、癒される。そんな人。

対して私、凪川瑞希《なぎかわみずき》は中性的な容姿。
オリーブベージュの髪。
長めに揃えられた前髪の隙間から覗く目は二重。
友人いわく。
《美人》らしい。

『笑ったら癒しだけど、怒ったらやばい』

やばいって、何が…?
意味がわからないけどよく言われるから、そうらしい。

「琥珀、いい事でもあった?」

心做しか、ウキウキとした様子の琥珀。

「うん。瑞希と帰れるから、嬉しい」

「!」

……また、可愛いこと言う……。

「あ、凪川さんだ!」

「ほんとだ、うわ〜…今日も美人…」

チラチラと聞こえてくる声。
……私のことは…どーでもいい。

「まじ、北斗の何がいいんだか」

「確かに良い奴だけど、やっぱなぁ…」

「な。北斗には勿体ない」

だけど…。
その2人の声に、《僕》の気持ちは氷点下まで下がった。

「…あ、はは」

ちょっと傷ついて、様子の琥珀。
でも、次の瞬間。驚きに変わった。

「…ねぇ」

「「え、」」

僕が、陰口を言っていた2人に声をかけたから。
笑顔を貼り付けたまま、2人を壁際まで追いやって。
2人のネクタイを、グイッ、と引っ張って顔を近づけた。
前髪から覗く2人を見ながら。

「……僕のものを、傷つけないでくれる?」

「「っ」」

低い声で、言った。
2人は顔を赤くさせて、逃げていった。
ふふ、怒った…?

『怒ると一人称が変わる』
ずっと変わらない癖。
『大切なものを傷つけるとすぐに怒る』
これは、琥珀といたから。
『怒ったら、睨みながら笑う』
これは、、、
聞いて初めて知った。

「み、瑞希…?」

顔を真っ赤にさせて、オドオドする琥珀。
あはは、可愛い。

「ずっと、僕のそばにいてよ?」

数センチしかない身長差。
耳元で呟いて。
私は琥珀に微笑んだ。

「なっ…!」

真っ赤な顔を隠すように手で覆った琥珀を見ながら。

周りで、琥珀に熱い視線を送っているやつを睨んで。

《僕のものに手を出すな》

目だけで、そういった。



「琥珀ー!」

高めのちょっと中性的な声。
その声に僕はドキッとした。
振り返ってみれば、予想通りの人が微笑んでいる。

「瑞希…!」

椅子から立ち上がって、教室の扉へと早足で行く。

オリーブベージュの肩あたりまで伸びた髪と。
長めに揃えられた前髪からは、二重の大きな目が覗く。
色白で、高身長で。可愛くて。
性格も良くて。
自慢でしかない、僕の彼女。

「瑞希、どうしたの?」

「ふふっ、琥珀と話したかっただけ!」

…可愛い。

瑞希の笑顔は癒し効果抜群だと思う。
クラスが違うって思って悲しんだりしたけど…。
これはこれで、嬉しい。

「あ、凪川さんだ。」

「ほんとだ!は〜…やっぱ美人…。いいなぁ…羨ましいわ。」

「…でも、ちょい地味?」

「いやいや、あれがいいんだって。髪型とかすっげーオシャレ。」

「ね!あーゆーの、似合う人って美人ばっかだよ〜…。」

男女4人の、クラスでも目立つグループの声。
少しだけ、聞き耳を立てつつ、彼女を褒められて上機嫌になる。

「……でも、なんで北斗なんかね?」

「だよね〜。なんか、頼りない感じするし。まぁ、性格いいから好きっちゃ好きだけど」

「でも、恋愛まではいかないよねー。」

あ、やっぱり僕の話になった。
美人な人の彼氏というのは、なかなかに注目される。
それが、こんな平凡男子なら尚更。

「………」

「?どうしたの、瑞希」

少しだけ傷つきながら、笑っていると、瑞希か黙った。
ジッ、と一点だけを見ている。
それに気づいた、次の瞬間。
瑞希が教室へと入っていって、話していた男女4人のグループに歩み寄った。

「え、」

「ど、どうしたの、凪川さん」

戸惑った様子の4人。

ガンッ___

蹴られた椅子が軽々と倒れた。
その音で、皆の視線が瑞希に向けられる。

「…琥珀を悪くいうとか…僕が許さないから。」

「っ、!?」

その一言と、瑞希の横顔に動揺するのと同時に体が熱を持っていく。
前髪から覗く目が、睨みながら妖しく輝いて。
口元は弧を描いている。
色気たっぷりの、怒った顔。
可愛い彼女。なのに、かっこいいと思ってしまう。

「ひゃっ…!」

「っ、」

4人は、顔を真っ赤にさせて、ただ、縦に首を振って頷いた。

「僕のものに手を出すのも、傷つけるのも…全部」

《禁止だから》

口パクだったのもハッキリとわかった。
スッキリした様子で戻ってきた瑞希から顔を逸らす。

「僕が守るから、琥珀は僕だけ見てて…?そうじゃないと、やだ」

色気たっぷりの可愛い笑顔も。
今は…。

「……〜っ、カッコよすぎだから…!」

いつか、誰かが言ってたと思う。

『凪川さんは怒らせない方がいい』

って。
だって……。

『カッコよすぎて、やられるよ?』



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