「早く帰ろ?」


航平の視線に気付いたあたしは、わざと素っ気なく呟いた。


「部活は?」

「終わった!もう 腹が減り過ぎだよ」


「練習前に菓子パン食べたけど、全然足りない」そう言って腹を擦った航平は、またニッコリ笑ってあたしを見た。


「だから早く帰ろ?」


小首をかしげた様は、品の良い犬のように見える。

その品の良い犬のまま、航平はあたしの後ろに視線を送ると苦笑いをした。


「相変わらず使ってるね?」

「え?」


航平の視線の先には、あたしの荷物が散らばった机。

「散らかし過ぎ」とため息混じりに笑う航平と机を交互に見ながら、あたしは慌てて首を振った。


「3分で片付ける」

「ホントに?」

「本当!待ってて!」


思わずそう言ったあたしは、航平の意図に気付いて小さく笑った。


「ありがと。すぐ片付けるから」

「了解」


いつもいつも、航平は人を和ませるのが上手い。

あたしが連られて笑うと、航平はあたしの頭にぽんと軽く手を置いて微笑んだ。


「下駄箱のトコで待ってる」


そう言って渡り通路を歩いて行った。