一番奥の最後のお店を通り過ぎると、ご主人さまはぼくの手を掴んで、走り出した。
「ご主人さま?」ぼくが訊くと、
「ちょっと我慢してな。良い所に連れてってやるから」と言って、ぼくの手を引っ張った。
 ぼくが走り疲れた頃、
「そろそろだぞ」と言って、煙の前で止まった。
「ご主人さまここは?」ぼくが訊くと、
「もう少し待ってな?」と煙の先を見ながら言った。ぼくが不思議に思いながら、ご主人さまと同じ方向を見た。
「ほら、来たぞ!」ご主人さまは興奮気味に叫んだ。
 煙が晴れて、奥にあったものがハッキリと見えてくる。
「え...」ぼくは驚いた。ぼくが見たのは、大きなサクラの木だった。ぼくが木を見上げていると、
「ここは、この国の中心部。心臓だ」とご主人さまは言った。
「心臓...」ぼくは、言葉が出なかった。
「大丈夫?」とご主人さまはぼくの前で手を振る。
「だ、大丈夫です...」とぼくが言うと、ご主人さまは笑って、
「仕方ないな」とサクラを見上げた。