ほんの少しだけ怖くなったぼくはご主人さまの足にしがみつく…
波がぼくの足を攫う…それがどうしようもなく楽しくなってご主人さまから少し離れた。
「あんまり遠くに行くなよ」なんて言うご主人さまの声は、ぼくの耳を右から左に駆け抜ける。ぼくは少し冷たくなった海を突き抜ける。
いきなり目の前から青空が消えた。
「!」ぼくは驚いて、砂を蹴ろうとした。口や鼻からボコボコと音をたてて泡が出ていく。苦しかった…
いくら手足をばたつかせてもぼくの体は沈んでいく…
「ルシア!」ご主人さまはぼくの腕を掴んで引き上げた。
「ゲホッゲホッ」
「ルシア大丈夫か?」咳き込むぼくに、ご主人さまは訊いた。
「大丈夫です」そう言いながら口の中が塩辛いのに気が付いた。
「ご主人さま、海ってしょっぱいんですね」そう言うとご主人さまはニコリと笑っていた。
こうして、ぼくとご主人さまの休息は終わりを告げた。