振り上げた手をそのままにして呆然としている姫子と、その姫子の手首をがっちりと掴んだヤマジ君の姿だった。


「放してよ! 何なん、この子? 一発殴ってやらな、気が済まへんわ!」


逆上した姫子はさらにあたしを睨みつける。


「だいたい、アンタ、シンイチの何なん? アンタには関係ないやろ?」


「あ……あたしは……」


両手でギュッとスカートを握った。


なぜか声が震えて、涙が滲みそうになる……。

それをグッと堪えて俯いた。



「あたしはヤマジ君のクラスメイトで、一緒に保健委員をしてて……」


言いながら気づいた。


それだけだ。


それだけなんだ。


あたしばっかりヤマジ君のこと考えて、いつも勝手に妄想して……

自分の王子様みたいに仕立て上げて。


だけど、ヤマジ君はあたしの名前すら覚えてくれていなかった。


その他大勢の中の一人。


きっとライブを観に行っても……。


あたしからはスポットライトを浴びる彼を見つめることはできても、ヤマジ君は客席にいるあたしの姿を見つけることはしない。



それがあたし達の関係なんだ。