「……来年は、また一緒に雪うさぎ作れますか……? 」

「……そうだな」


その呆れ声は、どちらのせいだろう。
雪うさぎを作りたがることか、それともまだ呼べなくて、遅くともそれまでには練習しておこうと思ったせいか。
でも、その優しい呆れ顔を見れて、すごく幸せ。


「小雪」


繋がれていた手をパッと離され、寂しく思う間もなく後ろから抱かれた。


「ありがとう。……また、俺に出逢ってくれて」


そんなの、何度だって逢いに行く。
どこの世界だって、あなたと笑っていられるところを見つけて。


「み、道端ですよ」

「ん。生憎、俺は気にならないらしい」


にっこり笑った顔は、今までどおり優しいけれど、あの時と同じように意地悪だ。
ああ、この人は本当にあの人だ。
あちこち歪んではいるけれど、そのくせ変に真っ直ぐに想ってくれた、私の大好きだった人。


「~~っ、そ、そういえば。私、高校生みたいなんですけど、恭一郎さ……は社会人ですよね? そういうのもやっぱり、言われちゃいます?? ロ……」

「……だ・か・ら! 私はこちらに戻りたくなかったのだ」


禁句だったのか、懐かしい言葉遣いが戻り。
つい、にんまりした頬を優しくつねった後、私を追い越してスタスタ先を行ってしまう。


「う、嘘です!! 年上の男の人っていいなあ……!! 」


それでもすぐに追いつけて、嬉しくてきゅっと近くにあった腕を抱き締めた。


「……今頃、お供え物してくれてますかね」

「だな。ぶつぶつ言いながら、きっと」


彼が自分を「私」と呼んだからか、ふと皆のことが思い出される。

どうか、みんなに幸せだと伝えて。
叶うならば、みんなが幸せにしていると教えて。


「それにしても、まあタイミング良く風邪引いたりしたな」

「……えと。記憶にないんですけど、母によると雪で遊んでたらしいんですよね」


正直に話すと、もちろん盛大な溜め息が降ってくる。


「でも……ちゃんと南天の実、あったんですよ。おかげで、二匹とも真っ赤な目がついていました」


誰がどうやって手に入れてくれたのか、今も分からずじまいだけれど。


「……そうか。何にしても、来年までお預けだからな」


耳元で囁かれ、ふと見上げると瞼をそっと撫でられる。
眩しいのと照れくさいので、指が辿るとおりに目を閉じた。

陽が射している。
いつからいたのか、外に座っていた二匹のうさぎも、明日には解けてしまうだろうか。


「はい。雪うさぎを作るのは……」


それでも、二匹はきっと幸せだ。
だって、この世界で。
ふたりで笑っていられる世界で、仲良く寄り添っていられるのだから。




【明日、雪うさぎが泣いたら・おわり】