そうか、今日は日曜日。
総合病院の救急外来に連れて行かれて思ったことも、何だかピンとこない。
「薬貰ってくるから、そこで待ってて」
「はーい」
幸いと言うか、そりゃそうだと言おうか、とにかくただの風邪だった。
とは言え、身体は怠い。
動く気力もないから、いい子に返事をして。
『いい子にしてた? 』
『うん……!! 』
いい子にしてないと、あげないよ。
『……まったく。夜中くらい、大人しく……』
だって、一緒にいたいんです。
――恭……。
「……う……」
くらりと重心が傾いて、待合室の椅子の上でどうにか踏ん張る。
(……なに、これ……? )
目が回って気分が悪い。
なのに、嫌な気分と言うよりは、ただひたすらに切なかった。
熱と涙で、周りの様子さえ霞んでいる。
(私……泣いてるの? )
ただの風邪だ。
楽ではないけれども、誰かが側にいないことを心細く思うような歳でもない。
慌てて目を拭って、思わず辺りを見渡した。
誰かに気づかれていないだろうか。
別に誰も気にしないとは思うけれど、大人に近い年齢の私が泣いているのは、何だか気恥ずかしい。
「あ……」
一人、見つけてしまった。
ここに入院しているのだろうか。
少し離れたところに座っている、病衣姿の男性。
近くの自販機で買ったのか、水のペットボトルを口許へ傾けたまま、驚いたようにこちらを見ていた。
「……っ……」
まだほとんど中身が残っていたペットボトルが、鈍い音を立てて床に落ちたのが聞こえた。
スローモーションのように、ひどくゆっくり水が飛び散り跳ねる音も。
そんなことがあるだろうか。
ここからだと少し距離があるし、日曜とはいえ急患も受け付けている院内は、それなりにがやがやと雑音に溢れているはずだった。
「……あ、あ……」
私は駆け出していた。
さっきまで、背もたれから起きるのも怠かったのが嘘のように、全力で走っていた。
無意識のうちに、何か大事なものを絶対離さないというように、側にあった鞄を掴んで。
乱暴に取っ手を握っておきながら、そっと中身があるのを確める。
「……さゆ……」
ああ。
『目が赤くなってる。……雪うさぎみたいだ』
その声が耳を伝ったとたん、私は堪えきれずに泣きじゃくった。