次第に弱まっていく光。
何かから守ってくれようとしていた腕の力も、だんだんと感じられなくなっていた。
それが誰の腕だったのか、なぜ抱かれているかも分からないのに、ただ悲しくてつと涙が頬を伝う。
『ほら、そんなに擦るな』
『真っ赤。……雪うさぎ……』
どちらも優しい声だ。
それが耳の奥で重なって、まるで水中に沈んだみたいに、もう上手く聞き取れない。
なぜだか絶望すら感じるほど、泣き叫びたい気分だった。
「……う、ん……」
熱くて熱くて、寝苦しい。
自分の唸り声に、私はうっすらと目を開けた。
「小雪、大丈夫? 熱が高いみたいだけど」
母の怒ったような、それでも心配していると分かる顔が広がっている。
「……母さ……」
「もう。その歳になって、外で雪遊びなんかしてるからよ。いくら雪が好きだからって、真冬にずっと外にいたら、そりゃ風邪引くわよ」
今、違う誰かを呼びかけた気がして、喉がむずむずする。
何かが引っ掛かっているのに、それが何だか心当たりがなくて気持ちが悪い。
どうにか飲み込んでも、今度は胸の奥がもやもやした。
「起きれる? 病院に行きましょ」
いつもの部屋だ。
雑に掛けられた制服も、積まれたままやる気のない教科書とノート。
昨日、もちろん自分で着替えたパジャマも。
どれも当たり前のように見覚えがあるのに、どうして今日に限っておかしな気分になるのか。
「……うん」
(雪遊びって……)
何でまた、こんな寒い日に。
窓の外を眺めると、今もちらちらと舞っている。
ふわふわした雪が切なくて、ぼんやり見たまま目が離せない。
机の上に座ったうさぎのぬいぐるみも、なぜか窓の方を向いていた。
「あら、またそれ枕元に置いて寝たの? 昔からお気に入りよね、そのバレッタ。でも、不思議ねえ。私もお父さんも、そんなのあげた記憶がないんだけど……」
バレッタ。
子供用のヘアアクセを見て、どうしてこんなに胸が苦しいのだろう。
それにどうして、私はこっそり鞄に忍ばせたりしているのだろうか。